関係創りから生きる力を


 認知症の問題は、ようやくクローズアップされてきたところです。国立精神神経センターの推計によると日本の65歳以上の認知症老人は、2000年には155万7700人。10年前に比べ55万人増加しています。世界中の製薬会社が抗認知症薬の開発に取り組んではいるものの決定的な新薬の開発には至っていないのが現状です。その中だからこそケアのところがとても重要なことになっていくのだと思います。

 

 認知症の方の場合、外に出かけていくことが心配になり、その機会も少なくなります。社会との関係が薄くなっていき、家の中に居て、刺激も変化も少ない生活となってしまいます。気持ちも動くことが少なくなり、認知症が進んで失禁をすることが出てきたり、物忘れをするようになると家の中でも厄介もの扱いされることも出てくるかもしれません。出来ていたことが出来なくなっていく自分自身とうまく付き合えず、生きていく意欲も低下してしまいます。相互的な関係が失われて一方的に介護される受身の中では主体が崩壊していくということにつながっていってしまうのです。

 

 これまでの介護は手を貸す側が主体。老人は受身になっていました。人生の最後のところをどう生きて行きたいのか。わたしたちはそこを受けて笑顔で生活をしていけるところを創っていかなければならないと思っています。

オムツにしないための工夫がどれだけできるのか。自分で食べられるような工夫をどれだけできるのか。又認知症となっても、介護が必要になっても安心できるなじみの関係の中、笑顔で生活できることをどう保障して行くのか。ご本人を主体にご家族との穏やかな生活をどう創っていったらいいのか一人ひとりとしっかり向き合うことが必要だと考えています。スーパーデイようざんもオープンして早2年3ヶ月。たくさんの方々にご利用いただいています。

 

 夫が亡くなってから独居で、強い入浴の拒否があったKさん。ご近所とのお付き合いも無く、高齢で地域の方からも心配されていました。娘さんがどんなに同居を勧めてもなかなか受け入れてくれなかったそうです。そんなKさんから若い頃の話をじっくり聞いて、大好きな芸能人の話をたくさんして笑いあえるようになって来た頃からかたくなな頑固さは少しづつ消え、娘さんとも同居されました。現在は入浴もできるようになりお友達との会話を楽しみに利用されています。

 

 入浴に強い拒否があったSさん。ご本人が気に入っているテレビのCMをまねて職員と動き大笑い。病気のため胸をOPEされた心のつらさを抱えていましたので、同じつらさを持つ方と一緒に脱衣することを重ねることで、自分から胸が無いことを自然に言えるようにまでなりました。現在は入浴もできるようになり、かたくなだった他の方との関係もとてもよくなり、集団生活の中で優しくまわりの方を想い、午後のリズムダンスの先生として笑顔で張り切っています。

 

 自然が大好きで、とにかく歩かないと落ち着かないMさん。激しい気持ちの変動もあり入浴などは論外でした。とにかくとことん一緒に歩き(一緒に剣崎まで歩き大好きな無人の野菜売り場でお買い物)、大事に思っているご家族の話や山の話をたくさんしてきました。その中で山歩きの歩き方を教えてもらいました。歩いているときは表情も柔らかく心も穏やかになります。歩き方を教えてくださるときは意気揚々と生き生きとして話してくださいました。最近は入浴もできるようになり、気の合う同年齢のお友達も出来て生活も穏やかになってきています。

 

 3人の方のご利用の様子をご紹介しましたが入浴を嫌がる人も本当は風呂に入りたいんです。入ったらやっぱり気持ちいいんですね。嫌がってやっと入ったお風呂の中で「あら、今日は髪の毛洗ってもらえないのかしら」なんて言うんです。

 

 認知症が深く落ち着かない方を認知症の方が「大丈夫心配ないよ」とやさしく声をかけ、手をさすり話を聞いています。声をかけられた人も安心してうなずき穏やかに手をさすってもらって落ち着いています。こんなことも日常的なんです。職員よりも落ち着くんじゃないかなということもあります。世の中の荒波の中を潜り抜けてきた方々で、たいへんな時は助け合うこともたくさん生活の中にあった方々なんだなあとつくづく感じます。梅干の漬け方を教わって一緒に漬けたり、饅頭の作り方を教わって一緒に作って食べたり、昔の出来事を聞いたり・・と教えていただくことがたくさんあります。こうして行ったり来たりの関係が良好で深くなっていくと皆さんとても落ち着いて穏やかになります。役割ができ、満足され自信が安心安定へとつながるのです。

 

 生きる力を取り戻すためには、親身になって相手にしてくれる居場所を創り、情緒的に支えてくれる身内や身内に代わるものを創っていけばいいのだと思います。そうした関係つくりのケアがとても必要なのです。

 

 大切なのは「気持ちの距離」なのだと思います。健康や体力を気遣いながら、一緒に明るく笑って、一緒に動き、想い、想われて生活すること。一方的ではなく「自分がする人にもなる」=主体となる機会を持つ。してもらうこともありながらも、自分がしたり、教えてあげたりもできるそんな関係の中で生活できること。そこから生きる力が出てくるのだと思います。

(スーパーデイようざん 田村敦子)